イチョウは、東京・大阪・神奈川の木となっています。これは単なる偶然なのでしょうが、日本をリードする3都府県が期せずして同じ木を選ぶとは非常に興味深いですね。

これから、イチョウの季節です。ギンナン(イチョウの実)拾いを楽しみにしている方、あるいは道路に落ちて踏みつけられた実が放つ悪臭にしばらくの間いやな思いをされる方、青空を背景に黄色く色づいたイチョウを眺めるのを心待ちにしておられる方、はたまた歩道に降り積もったイチョウの濡れ落ち葉に足を滑らせる方などさまざまでしょう。でも、イチョウは日本の三大都府県から支持されている木ですから、やはり魅力ある木なのでしょう。生きた化石といわれるくらい昔から生き延びてきた木で、逞しい生命力をもっており、たとえ雷に打たれても、台風でなぎ倒されても、火事にあっても、不死鳥の如く復活している例がたくさんあります。

さて、いまイチョウとかギンナンとか何気なく片仮名で書きましたが、いずれも漢字で書くとなると銀杏が最も一般的です。ならばイチョウを英語で書けば?それは、Ginkgoが正解です。でも、よくスペルを見て、発音してみてください。どこか変な感じはしませんか? 実際、この英語表記そのものが、間違いなのです。私が、ここで綴りを間違えたという意味ではありません。その昔、17世紀末(元禄年間)に長崎のオランダ商館で勤務していたケンペルというドイツ人の医者・博物学者(有名なシーボルトと似たような立場の人ですが150年近く先輩にあたります)がヨーロッパでは早々と絶滅してしまっていたイチョウをヨーロッパに紹介する時、ある問題が起こったのです。

種明かしはこうです。
日本では、イチョウのことを銀杏、公孫樹、鴨脚などいろいろな漢字をあてて表現しています。最も一般的には銀杏と書いてイチョウと読ませます。しかし、これを音読みするとギンキョウ、これをアルファベットで表記すればGinkyoです。当初、この名前で紹介されるはずだったのですが、どういうわけかGinkgoという誤った表記のまま「日本誌」という彼の著書が出版されてしまいました。その後、生物の命名法で有名なスウェーデンのリンネ先生も「日本誌」の表記が間違っているとは気づかずにそのまま引用したことで、Ginkgoという綴りの間違った名前が学名として登録されてしまったのです。いわば、間違いの二階建てとなったのです。

なぜ、そのようなことになったのか大いに疑問が残りますが、ケンペル先生があまりに悪筆でGinkyoと書いていたのに、いざ活字に組むとき職工がGinkgoと「筆記体のy」を「筆記体のg」に読み間違え、活字を組んで(誤植して)しまったためか・・・。仮に先生がギンキョウという日本語の発音を聴いて分かっていて表記したなら、多分Ginkioとでも書いたはずです。東京をドイツ語ではTokioと表記するように。したがって、もう一つ他に想像できるのは、その頃彼の仕事を手伝っていた日本人の通詞か何かがアルファベットの筆記に不慣れで、yだかgだか分かりにくい字で書いた原稿を先生に渡していたのではないか・・・ということ。しかし、今となっては真相は分かりません。国際的には厳格な植物命名規約というものがあり、明らかな誤植などが証明されれば訂正も可能なようですが、今のところその証明はされておらず、この誤記(?)は未だ訂正されてはおりません。
(Henk Ozmann)

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